働く女性のファンタジー

群ようこさんのれんげ荘 (ハルキ文庫 む 2-3)を読んだ。

月10万円で、心穏やかに楽しく暮らそう!キョウコは、お愛想と夜更かしの日々から解放されるため、有名広告代理店を四十五歳で早期退職し、都内のふるい安アパート「れんげ荘」に引っ越した。そこには、六十歳すぎのおしゃれなクマガイさん、職業゛旅人”という外国人好きのコナツさん……と個性豊かな人々が暮らしていた。不便さと闘いながら、鳥の声や草の匂いを知り、丁寧に入れたお茶を飲む贅沢さを知る。ささやかな幸せを求める女性を描く長篇小説。

憧れの無職生活を手に入れた45歳の女性の物語で、おもしろくてスラスラ読めた。

主人公の女性は無職のため、80歳まで月10万円で生活していくお金を貯めて会社を辞める。

仕事もしないので完全な貯金生活。

世間体を気にし、他人と比較して自分を上にすることで悦に浸る他人の悪口ばかりを言う母親との同居生活から離れ、都内の戸建ての家からボロボロのアパートに引っ越す。

カビは出る、虫は出る、夏は暑く冬は猛烈に寒い部屋にくじけながらもだんだんその環境に慣れていき、いろんなことに折り合いをつけて暮らしていく物語だ。

貯金を切り崩しながらの生活だけど、禁欲的に過ごすだけでもない。

食事の質は落とさず、コーヒーやお茶は少し奮発してでもおいしいものを飲み、流行の服や高価な服は買えなくても決して服装に無頓着になることもない。

隣に住んでいるオシャレなクマガイさんから洋服とお茶碗の物々交換で手に入れ、生活を楽しんでいる。

流行の服や小物とか、美容液だのエステティックだの、ネイルサロンだのと、たしかに外見は整っていたけれど、あれはきれいな甲冑だったのかもしれない。そして今はその甲冑を脱いで、中にあったくにゃっとした生身がそこにいる。さまざまな鋭い刃で突く者もいないから、固い殻は必要がない。

私はセミリタイアして、美容代や洋服代がかなり減った。

会社員時代の私も、服と化粧とネイルはまさしく甲冑だった。

会社の仕事という立ち乗りの絶叫マシーンに乗ってしまったら、想像を超える速さで走り出し、最初は振り落とされまいと踏ん張っていたのが、そのうち脱力したままマシーンの動きに身を任せ、そしてその脱力した自分の体重さえもてあますようになって、降りるのを決意したのだ。

降りるのは勇気がいるけど、降りたら私は楽になった。