「マネーワールド資本主義の未来」国家VS超巨大企業~富をめぐる攻防~

NHKで3回に渡って放送された「シリーズマネーワールド資本主義の未来」を見た。

とても興味深い内容だったので、放送の内容をまとめてみようと思う。

今回は第2集 国家VS.超巨大企業 ~富をめぐる攻防~

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巨大グローバル企業と国の軋轢

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国の歳入と企業の収入のベスト100を出すと、10位に企業が入るような状態。

世界最大手のスーパーマーケットであるウォルマートに関しては、スペインやオーストラリアの国を上回る収入となっています。

グローバル企業はこのベスト100の中に70社もランクインされているという異常事態です。

税金

国と世界的なグローバル企業の軋轢の代表的な例が税金です。

世界的IT企業のアップルは、アメリカに本社を置き、アメリカに法人税を納めています。

ところが3年前、会社のトップが米上院公聴会に呼ばれます。

 

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この5年間法人税(の一部)を払ってないと言われると、ティム・クックCEOは「今の税法は古すぎる」「税率が高すぎる」と答えます。

議会はアメリカに納める法人税の一部を、税金の安いアイルランドで納税したと主張しました。

いわゆる「租税回避」の問題です。

回避したとされる税金は90億ドルとされており、およそ1兆円にのぼります。

アップル側は、法人税は全て法に則って払っており、全て合法であると主張しました。

法律上は問題はないとされ、議会もこれ以上の追及はしませんでした。

 

世界各地に工場や支店を置くグローバル企業。

各国の法律に則りながらグローバル展開の利点を駆使してビジネスを行っています。

例えば企業の中で売上が高い部門。

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それを本社ではなく、法人税の安い現地部門の売上にすることによって税金を安く抑えます。

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このような行為は法律に則っているため、違法とはなりません。

しかしグローバル企業が大きくなるにつれ、租税回避が拡大され、回避された税金は2,400億ドル(約22兆円)にのぼり、世界の法人税の一割とされています。

本来なら国が税金として徴収し、国民の行政サービスとして還元すべきお金が消えていくことになります。

 

経済学者ジョン・クリステンセン氏によると、租税回避は多くのグローバル企業が行っているとみられ、こうした動きが続けば国家の機能を揺るがす事態になりかねないと話しています。

 

租税回避の動きを加速させているのが、世界各国が行っている法人税の引き下げ競争です。

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ヨーロッパの国々の多くが、2000年と今を比べると、税率の引き下げが起きています。

自国の企業の競争力をアップさせるとともに、グローバル企業を呼び込むことが狙いです。

 

アップルとの関係が指摘されたアイルランドは、中でも群を抜いた引き下げを行いました。

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そのおかげでアメリカ企業700社を誘致し、14万人の雇用を生み出すことに成功しました。

今年8月、この問題は新たな展開を迎えました。

EUがアイルランドとアップルに対し、アップルがアイルランドで受けた税の優遇は(EU法に照らして)違法だと強い疑義を呈したのです。

そしてアップルは130億ユーロの追徴課税を払わなくてはならないと発表しました。

 

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EUが発表したプレスリリースによると、アップルの欧州での全利益はアイルランドに計上。

そしてアイルランドでは、ほぼすべての利益が書類上だけで存在するペーパーカンパニーに配分され、課税されていない。

それはアイルランドがアップルに違法な税の優遇措置を与えたからだと結論付けたのです。

EUは、アップルが実際に払った法人税率は0.005%(2014年)で、アイルランドだけではなく他の国もからませて税金を圧縮していると主張しています。

(アップルは合法だと主張しています。)

EUは、アップルはアイルランドの低い法人税率12.5%すら納めていないとし、他の企業は法定税率を守っており、アイルランドはそれを見逃し欧州の競争にとって不公平な事態を招いているとしています。

アップルとアイルランドは強く反発し、ヨーロッパ司法裁判所への提訴を検討しています。

このEUの発表に対してアメリカのオバマ政権も、アメリカに支払われるべき税金がEUに流れると懸念を表明しました。

アップルのティム・クックCEOは、海外事業で稼いだ米国外で保有する多額の現金について、来年以降「米国に還元する」との考えを示しており、税金の徴収を巡って米国とEUの間で対立が深まる可能性もあります。

(参考記事;アイルランド、EU提訴へ、アップル税優遇で

 

ヨーロッパではアップル以外にも、他の企業にも税をめぐって様々な動きが出ており、既に追徴課税を支払った企業もあります。

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企業側としては株主から「税収を最小化・利益は最大化しろ」と言われているので、このプロセスで税金を抑えても違法なものは何もないと主張します。

なぜ租税回避が問題になるのか?

国は経済を成長させるため、様々な経済政策で企業の成長を促します。

また、企業が社会に悪い影響を与えないために規制をかけるなど管理する役割も担っています。

そしてもう一つの大きな役割が再分配です。

企業はビジネスで儲かったお金を社員に賃金として支払います。

しかし儲かっている企業がたくさん払い、あまり儲かっていない企業が安く抑えていると国民の間で格差が生まれます。

そこで国は企業の儲けの中から法人税を徴収し、それを福祉や公共サービスとして広く再分配して国民に還元します。

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また介護サービスのように、競争に任せていただけではビジネスとして成立にしくい分野にも国のお金を投入して成長を促します。

これらが、国の再分配機能です。

この再分配を適切に行うことが、資本主義の健全な発達を促してきました。

しかし企業が租税回避を行うと国の税収は減ります。

すると今まで国民へ行っていた公共サービスも減ります。

法人税が減ってしまうと今度は消費税を増税することになり、国民の負担が増えることとなります。

巨額裁判

税金に次いで国家と企業の軋轢となっているのが、企業が国家を相手取り行っている巨額な裁判です。

大企業に訴訟を起こされた国家は109か国にのぼり、およそ700件になります。

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その国の一つが南米の国、エクアドルです。

数々のグローバル企業が訴えられた損害賠償額が国家財政を揺るがしています。

現在係争中の裁判は8件。

中でも国家財政を揺るがす事態に発展しているのが、アメリカの大手石油会社の裁判です。

争っている損害賠償額はこの1件だけで95億ドル(約1兆円)になります。

国家予算の3分の1にあたる巨額です。

訴訟の舞台となっているのがコロンビアとの国境近くの油田地帯。

 

石油の採掘が終わったはずの場所から今も原油が漏れ続け、近隣の住民に深刻な健康被害が出ています。

この油田はエクアドル政府とアメリカの大手石油会社が採掘を行ってきました。

1992年企業は契約が終了し撤退しました。

その際汚染処理が施されましたが、なぜか原油が川に漏れ出てきたのです。

被害や環境破壊の責任をめぐりエクアドルと石油会社は長年裁判で争ってきました。

会社側は撤退後一切の責任を負わない約束という契約を結んでいたことから、責任はエクアドル政府側にあると主張。

被害の賠償1兆円もエクアドルにあるとしています。

このまま結審すれば、企業と国家との裁判としては史上最高の賠償額となる見込みです。

エクアドルのギジャウメ・ロング外務大臣によると、石油会社の規模はエクアドルGDPの2.5~3倍であり、もし裁判に負ければ国の義務である国民の利益を守ることや教育・医療・インフラ整備などができなくなりかねないと話しています。

 

グローバル企業が国家を相手取り巨額裁判を行う背景に、ISD条項と呼ばれるものがあります。

ISD条項とは、企業が外国に進出する際相手国との間に結ばれるルールです。

相手国の対応によって計画通りのビジネスができなくなった場合などに、企業は損失の保障を求め裁判ができるという内容です。

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グローバル企業を呼び込みたいという国家が増えてきたため、締結するケースが増加。

それと同時に裁判の数も急激に増えています。

エクアドルの場合、これまでに訴えられた件数は22件にものぼり、すでに結審したものだけで賠償額が2,000億円に及んでいます。

財政の悪化によって行政サービスのカットが始まるなど、国民生活に影響が出始めています。

日本も訴えられる可能性はある?

今のところないが、TPP環太平洋パートナーシップの中にISD条項と似たような条項が入っている。

ISDS条項(ISD条項) 海外起業を保護するために内国民待遇が適用される。これにより当該企業・投資家が損失・不利益を被った場合、国内法を無視して世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターに提訴することが可能。2013年11月6日、訴訟の乱発を防ぐことを条件に合意に至る。

(参考;TPPとは?TPPのメリット・デメリットをわかりやすく解説 http://www.toha-search.com/keizai/tpp.htm

将来的には、日本も企業から訴えられる可能性はある。

グローバル企業の恩恵を受けようとする国家

中米の人口800万人のホンジュラス共和国は、かつてない政策で世界から注目されています。

全国21か所に用意している経済特区ZEDE(セデ)です。

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一般的な経済特区は、その国の法律の下で法人税の優遇や規制緩和などを行います。

しかしZEDEではホンジュラスの法律がほとんど及びません。

一定数のホンジュラス人を雇いさえすれば、税率も裁判官の認定も、警察が動くかどうかも進出企業が決めていいとしています。

大統領直轄の一大プロジェクトです。

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ホンジュラスのZEDE長官オソーリオ・カナーレス将軍によると、ホンジュラスには雇用がなく、政府もこれ以上増やせないとし、それ(雇用を増やす)ができるのは様々な分野に投資をしてくれる海外投資家たちだとしています。

また、危険を冒して大きい賭けをしなければ成長できないとし、もう他に手だてはないと話しています。

この経済特区に世界のグローバル企業から熱い注目が集まっています。

 

経営難に陥っていた地元資本のホテル。

10か月前、世界的ホテルチェーンのヒルトンが経営に乗り出すことが決まりました。

法人税がほとんどかからず、すぐに投資を回収できると数億円をかけてリニューアルが行われました。

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一方、国民の側からは大反対の声も湧き上がっています。

反対している人たちは、住んでいる土地を経済特区に指定された人たちです。

特区建設のために立ち退きを強制されているといいます。

立ち退きを強制された人の中には、刑務所に収容されている人もいます。

 

特区の計画を決める最高諮問委員会。

そこにも国民の怒りが向けられています。

最高諮問委員会のメンバー21人中17人が外国人で、アメリカのレーガン元大統領の息子がメンバーの一人となっています。

国家を飲み込む巨大企業

21世紀に入り、国は企業をコントロールできなくなり、逆に国の方が企業に選んでくださいという立場に変わってきている。

いわば企業が国を選ぶ時代になってしまった。

税率を下げて海外から企業を呼び寄せる活動が加速すると、今度は条件を切り下げる底辺の競争が始まってしまう。

デフレのような状態となり、結局は住民や国民が被害を被ることになる。

(被害に遭っているのは特に小さな国。)

なぜ企業が国家を飲み込むほど巨大化したのか?

250年前の18世紀、産業革命の国イギリスで生まれた資本主義。

アダム・スミスが唱えたように、当初は企業が自由に経済活動を行い、それによって経済成長が続きました。

ところが利益を追求するあまり公害などの問題が起こり始め、国による規制や管理が始まります。

一方で大きな不況が起きると、国は公共事業を起こして仕事を与えるなど救済を行い、成長を後押ししてきました。

そして第二次世界大戦後の復興期、国は更に先頭に立って自国の企業を支援するようになりました。

目指したのは国内市場の拡大です。

外国企業が参入しにくいよう高めの関税を設定しました。

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一方で、自国の企業にも簡単に外に出ていかないよう、海外での出資や投資に高い制限を設けました。

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その結果、戦後の経済成長が発展します。

ところが1970年代に入った頃、各国の経済成長が伸び悩むようになりました。

そこで先進国のトップたちは方針を変えました。

マーケットを国内から世界へ。

企業が海外でも広く活動できるよう一気に制限を緩めたのです。

海外での出資や投資を大幅に緩和し、固定していた為替相場も変動相場制に変えました。

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しかし、中々低成長の壁は破れません。

こうした中脚光を浴びたのが、経済学者ミルトン・フリードマンが唱えた「新自由主義」です。

国家による企業への制約を無くせば競争が加速し、強い企業はより強くなるとしました。

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80年代、この理論を基に各国で一気に規制緩和が進み、企業に大きな自由が与えられました。

まもなく、先進国のGDPは右肩上がりで伸び始めます。

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さらに国は、自分たちが持っていた軍事技術などを民間企業に広く開放しました。

その代表例がインターネットでした。

すでに国境を越える自由が与えられていた企業は、猛烈な勢いで全世界に拡大。

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巨大なグローバル企業が次々と席巻します。

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2008年リーマンショックという未曾有の経済危機に遭遇した国は、大規模な財政出動などで危機に対応し、財政事情は一気に厳しさを増しました。

そして今、危機のために莫大な国費を投入して企業を支えてきた国家にかつての力はありません。

拡大し続けるグローバル企業に国家がすがるという新たな構図。

資本主義は、かつてないステージの只中にあります。

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資本主義は大きな分岐点にいる

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リーマンショックという世界的金融危機があり、国家が統制を強めるのかどうか?

市場に任せていれば問題は解決するということに、不信が広がっている。

国家に求めるのか?それ以外の新しいものに求めるのか?

世界政府の設立?

国境を自由に行き来するグローバル経済とその動きに対応できない現代の国家。

このままの状態が続けば、国家はグローバル化に対応するどころかむしろ逆行していくと指摘するのはフランスの経済学者ジャック・アタリ氏です。

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税の引き下げ競争などで疲弊する国家。

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資本主義経済はグローバルでも、国家はグローバルな形になっていない。

このままでは市場が破局するか、内向き志向のリスクが高まる。

そうなると「他人の利益は自分の利益につながらない」という考え方が広がり、経済紛争、場合によっては政治的な紛争のリスクを生み出しかねない。

そこでアタリ氏が提唱しているのが、国家の枠組みを越えた世界的な統治の仕組みです。

EUや国連の上に、国同士の利害を調整できる世界政府のような組織を作ることで、共通の利益を守ろうとするもの。

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アタリ氏の理想は、次世代の利益を守る世界的な法治国家を作ることだそうです。

財政赤字の問題から環境問題まで、世界共通の利益につながる対応策を打つべきだとしています。

日本は何ができる?

日本はODA(政府開発援助)【途上国への援助や出資】、その国の発展を促すため(自分たちの市場や経済圏を拡大するものでなく)の援助を行ってきたと言われている。

新しいポジティブな国家関係をもっと進化させていくことに貢献すべきでは?

新たな価値感

経済学者の人がたくさん警告を促しているが、人間は思っているより賢いのではないか?

成長というのは富を追うことだけでなく、新たな価値観が見出されることもあるのではないか?

(心の豊かさなど。)

新しい時代の資本主義と国家

資本主義をコントロールできない現代の国家。

それに業を煮やし、国に代わるものを一から作るというプロジェクトが始まっています。

新自由主義」を唱えたミルトン・フリードマンの孫、パトリ・フリードマンは、21世紀の問題解決に18世紀のDNAは使えないと言っています。

ではどうしたらよいのか?

パトリの考える新しい国とは、海上に浮かぶ小さな島。

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そこにビジネスをしたい人が集まり、自分たちで様々なルールを決めていこうというもの。

今ある大きな国家は変化する時代に対応できない。

こうした小さな集合体を数多く作った方が、資本主義の荒波を乗り越えられるというのがパトリの主張です。

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全く異なる10種類の政府があれば、何かが起こってもその影響は少なくて済むし安全。

むしろ巨大な国家システムは脆弱で間違っている。

このアイデアにより自由な経済活動ができると、今世界各国の若い起業家たちが次々と賛同。

およそ数千人が支持を表明しているといいます。

 

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その中にはペイパルを創業し、フェイスブックの成長を支援した投資家ピーター・ティールもいます。

ティールは可能性に賛同し、140万ドルを出資しました。

夢物語に見えたこのプロジェクト、9月南太平洋に浮かぶタヒチの海で本格的に稼働。

大統領をはじめ閣僚たちと交渉し、両者は合意になりました。

2020年には移住を開始する計画です。

国家の役割

スペイン南部のマリナレダ村、人口3,000人。

未来の資本主義のモデルがあるとして、熱い視線が注がれています。

それは「競争を制限する」ということ。

マリナレダ村の村長によると、人間が生きていく上でまず必要なものが食べ物や住居とし、それらで儲けようとしてはならないとしています。

この村では、人の暮らしの根幹、衣食住には資本主義の基本である競争を持ち込まないルールになっています。

つまりビジネスの対象にしないということです。

例えば住まい。

個人の土地所有は認められていません。

土地が売買できると投資の対象となり、買い占めなどが起きるからです。

土地は全て村が所有し、月に15ユーロで貸し出しています。

食料は村営の農場で生産され、村人には安い値段で配られます。

最低限の生活にはお金がかからず、安心して暮らせるといいます。

衣食住以外のところでは、経済活動は村が積極的に後押ししています。

その結果過疎な村が多い中、マリナレダ村には若者の移住が急増しています。

若い労働力が増えたことでビジネスの生産性も上がっています。

競争を一部制限することで、逆に成長した小さな村。

資本主義の国の在り方に一石を投じています。

村長は、今の資本主義は残念ながら福祉を念頭に置いたものではない、現在の資本主義がうまくいっていないのなら、新たなシステムを作り出すべきだと言っています。

まとめ

極限まで膨張する資本主義のシステム。

今、ギリギリの曲がり角に立っている国家、企業、資本主義。

間違いなく、新しい何かが必要とされいる

 

NHKシリーズ マネー・ワールド資本主義の未来 第2集 国家VS.超巨大企業 ~富をめぐる攻防~」(2016年10月22日放送)より文字起こし及び意訳・一部抜粋