そして生活はつづく (文春文庫)を読んだ。
私が星野源を好きになったのは、5年前に「夢の外へ」を聴いてからだ。
確か日焼け止めのCMソングだったと思うが、♪夢の外へ連れ出して~という歌詞とメロディーで一気に彼の才能に引き込まれた。
星野源 - 夢の外へ 【MUSIC VIDEO & 特典DVD予告編】
この才能豊かな歌手が、『タイガー&ドラゴン』のどんつく、『11人もいる』の情けないヒロユキおじさんと同一人物だと気づいたのは、随分後のことだった。
この本の初版は8年前の2009年に出版されている。
「過労?……ああ。あんた、生活嫌いだからね」 「え?」「掃除とか洗濯とか そういう毎日の地味な生活を大事にしないでしょ。だからそんなことになるの」
過労で倒れた時にお母さんに言われた言葉だそうだ。
星野源は自分の母親のことを「お母さん」と呼んだことはなく、「ようこちゃん」と呼んでいるそうだ。
ちなみに私も自分の母を呼ぶときは、下の名前に“さん”を付けて呼んでいる。
私は父が死んでから、母のことを「お母さん」と呼んだことはない。
私は生活が嫌いだったのだ。できれば現実的な生活なんか見たくない。ただ仕事を頑張っていれば自分は変われるんだと思い込もうとしていた。でも、そこで生活を置いてきぼりにすることは、もう一人の自分を置いてきぼりにすることと同じだったのだ。
生活が嫌い。
私も仕事が忙しかったときは、掃除なんてほとんどできなかった。
料理も作らずコンビニ弁当が続いた。
洗濯は週に1回まとめてやっていた。
仕事以外の時間はできるだけ寝ていたかった私だが、生活が面倒くさいと思うことはあっても、さすがに嫌いとまではいかなかった。
彼の場合、生活が嫌いだから仕事に打ち込めたのだ。
なんというか、うちの親は自分の子どもを使って遊んでいた。ひとりっ子だった私は客観性がない分、真っすぐに全身で受け止めるしかなかった。ゆえに概ね引っかかったのだ。
星野源は小学校の時、軽いいじめにあっていたそうだ。
ようこちゃんはそんな彼に、家の中だけは楽しくいてもらおうと思い、いろいろしたそうだ。
その中の一つが、お風呂の栓を抜いてお湯がなくなりつつある湯船に浸かったようこちゃんが、必死の形相で星野源に助けを求めるというものだ。
「源!吸い込まれるー!排水溝に、吸い込まれるー!」
パニックになり号泣しながら必死にようこちゃんの手を引っ張る5歳児の星野源。
助かったようこちゃんは、泣きじゃくる星野源を抱きながら、「どうもありがとうございます」と敬語でお礼を言う。
なんて素敵な親なんだ。
私も自分に子供がいたら、この「排水溝に吸い込まれる~」やりたかった。
全力で吸い込まれる演技をしてみたい。
私はできないが、今度小さい子供がいる友達に会ったらやってみてよと勧めてみよう。
このエッセイの中で星野源は自分には文才がないと言っているが、全くそんなことはない。
芝居も音楽も、才能というより「続ける」才能があったのかもしれないと言っている。
そして何か一つに絞るのではなく、やりたいことは全部やるという。
一見ナイーブそうに見えるが(お腹もしょっちゅう下すそうだが)、ワイルドな男だと思った。
話は変わるが、みんな本を読む時、脳内で再生される朗読の声は誰の声だろう?
自分の場合、著者の声を知っている時は「〇△×」のような会話部分は著者の声で再生されることが多く、その他の部分は自分の声がナレーションのように本文を読むことが多い。
しかし今回は、全て星野源の声で脳内再生された。
全て、だ。
まるで『去年ルノアールで』のようだった。