つらいことから書いてみようか

著者の近藤勝重氏は練馬区の開進第四小学校にて、5年生を相手に文章教室を開いた。いい文章とは何か、どうすればいい文章が書けるのか、書くことでどんな変化が起こるのかをやさしく解説。本書はその90分の「魔法の授業」を再現しながら、大人向けのさらなる解説も加えた渾身の文章読本。 

セミリタイアしてやりたかったことが、本をたくさん読むことだった。

好きなだけ本を読んでいると、ただ読むだけ(情報をインプットするだけ)というのは頭によくない気がしてきた。

アウトプットも大事にしようと思いブログを書くことにしたのだけど、最初は何を書いていいのかわからず、自分の考えが3行も浮かばないという日が続いた。

「ブログは向いていないのかも」と弱気になったけど、なんやかんや続けるうちに書くことにも少しずつ慣れてきた。

文章を書くのに慣れたら、今度は「いい文章が書けるようになりたい」と思うようになった。

ということで、今回はつらいことから書いてみようか名コラムニストが小学校5年生に語った文章の心得を読んで勉強することにした。

 体験に基づけば誰にも書けないことが書ける

わかるように書くにはつらいときの様子を描写する。それが一番よく伝わるんです。つらいという単なる思いや感想だけじゃ伝わりません。わかってもらえません。その場の様子と一緒に、その場で得られた印象、つまり自分の心に深く刻まれたことなどを具体的に書けば、つらい理由がわかってもらえるんですね。

私は今年で40歳になるのだけど、過去を振り返るとあまり楽しいばかりの人生ではなかった。

今は「やりたくないことはやらない」と決め、世間体や見栄から解放されて好き勝手に生きている。

数少ない友人と家族がいて、大好きな猫と暮らす毎日だが、今までの人生の中で一番穏やかで幸せな時間を過ごしている。

この境地に行きつくのに40年もかかってしまい、「今の考え方が昔からできていれば、そのうちの20年は短縮できたんじゃないかな」と思うこともある。

だけど簡単に手にしていたら、今の環境のありがたみがわからなかったかもしれない。

バカなこと、愚かなことをたくさんして、悔しい思いや苦しい思いもたくさん味わって、それが今の自分をつくったとブログを書いて気がついた。

ブログを書くのはまるでセラピーのようで、無駄に思えた経験も、今では考えて書くことで昇華できる。

楽しいことやうれしいことはともかく、つらいことを書くってちょっと勇気のいることだよね。その勇気を受け入れてくれるのが、文章なんです。僕はよく思うんです。自分を黙って受け入れてくれる文章っていいヤツだなあって。

「真似る」というのは「学ぶ」

できるだけ多くのものを読んで、みなさんなりにいいなあ、こんなふうに書けたらなあと思う文章に出会ったら、書き写してみてください。手書きがいいと思います。一字一句が伝わってきて記憶にも残ります。

私は岡倉天心の『茶の本』の筆写をしているのだけど、自分の手で書き写すのは記憶に残りやすいのでおススメだ。

『茶の本』の筆写が終わったら、今度は別の本の筆写を始めようと考えている。

なぞなぞ遊びでたとえ方を学ぶ

なぞなぞにできる比喩は、おたがいがイメージを共有できることで、「わかる、わかる」となるんですね。 

この本では、作者の近藤さんが子供たちに村上春樹さんの小説の一文から比喩となる語を空欄にしてなぞなぞとして問題に出している。

読みながら、「確かに村上春樹さんの比喩は独特で天才だ」と思い出した。

久しぶりに世界の終りとハードボイルド・ワンダーランドのページをめくってみる。

それで私自身はもう既に死んでいるのに、私の意識だけが寸断された記憶に従ってとかげの尻尾みたいに苦痛に悶えているのだ。 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

比喩は物語の世界を作り上げる大事な表現方法だと改めて感じた。

現在ー過去ー未来の順序で書く

出来事や物事は現在ー過去ー未来の順に書けば、また話せば、相手によく伝わる、わかってもらえるということです。 

この本では例を用いて説明されているが、とてもわかりやすかった。

 読点「、」の打ち方

読点「、」はすらすら読めて、意味がよくわかるように打たれていればいいわけです。書き手それぞれに考え方があり、また癖もあるでしょうが、欠かせない「、」もあります。 

ブログを書いていると、読点を打つ場所で悩むことがよくある。

読点は文のリズムを作るので、言葉を選ぶセンスと同じくらい大事だと思う。

久しぶりによしもとばななさんの本を読んだ時、読点の少なさに驚いた。

私が10代の頃に読んでいた時は気づかなかったが、これも自分がブログを書くようになったから気づいたこともかもしれない。

文章はすべてを受け止めてくれる

書くという作業には、手と一緒に頭と心が働き、考え考え進んでいく同時作業の実感がともないます。その際、頭は物事を筋道立てて理解することに、一方、心は頭での理解をそのまま受け入れられるかどうか判断することに働いています。

誰にも言えないことや辛い気持ちや苦しい思い、そんな感情を「書く」という行為で人は多少なりとも救われるのかもしれない。

この本には文章教室の授業を受けた子供たちの作品もあるのだけど、物事を捉える視点が素直で素晴らしく、正直驚いた。

私が日頃当たり前だと感じていることも、幼い子供の目から見ると「そんな風に映るのか」と勉強になった。

文章を書くうえで大事なことは、自分の気持ちに正直で、決してかざらないこと。体験したことを思い出し、目に浮かぶように描写すること。