ここ数年、巷でよく聞く「自動運転」。
「ブレードランナーやフィフス・エレメントで見た空飛ぶクルマの世界が現実に訪れるの?」などと勝手に夢が膨らんでいるのだけど、実際に「自動運転」の技術がどこまで進んでいるのかよくわからない。
Blade Runner spinner lift-off ('82 theatrical release version)
ということで今回は自動運転のすべて (Motor Fan illustrated特別編集)を読んで、自動運転について調べてみた。
クルマの運転
人間が行うクルマの運転
人間が行うクルマの運転は、「認識(認知)・判断・操作」の3つの機能で構成されている。
- 認知・判断→視覚から得られた画像を脳が判断
- 操作→人間の手と足で行う
(『脳』が運転の司令塔!)
人間はホモ・サピエンスの時代から数えて約50万年かかって進化してきたが、
わずか100年にも満たないコンピューターに人間の代わりがはたしてできるのであろうか?
自動運転
自動運転のコア技術は、「AI(人工知能)、コンピューター(CPU)、画像認識技術、位置情報を知るための詳細な地図」と言われている。
AIが人間の能力を超えることをSingularity(シンギュラリティ;技術的特異点)と呼ぶが、そのXデーは2040~2050年頃と予測されている。
実際に運転の基本機能である「認識(認知)・判断・操作」はどうやって自動化するのか?
レベル別にみてみよう。
レベル1(フットフリー)
ブレーキとアクセルを踏まなくても走れる状態。
日本で最初に衝突回避のために完全停止する自動ブレーキが認可されたのは、2009年のボルボ。
スバルもボルボを追ってほどなく完全停止に対応。
レベル2(ハンズフリー)
レベル1+横方向を制御するステアリングが自動化された状態。
カメラ技術や詳細な地図情報が必要。
レベル1よりはるかに技術的なハードルが高い。
→三菱電機は自動運転向けの3D地図開発を世界規模で手掛けるオランダの地図関連ベンチャー企業HERE Technologies(ヒア・テクノロジーズ)社との提携を発表。
2018年6月にはデジタル地図などの技術を持つ中国企業と提携を検討していることが明らかになっている。
レベル3(アイズフリー)
システムが運転しているときはドライバーは監視義務から解放される。
サブタスク(運転以外の他の作業)が可能。
ただしシステムが手に負えない状態に差し掛かるとドライバーに運転は移譲。
技術的にかなり難しいと言われており、現実的にはレベル4の方が実現する可能性は高いと言われている。
レベル4(ブレインフリー)
システムが手に負えない状態に差し掛かると、ドライバーに運転を移譲するのではなく、路肩に自動停止するなど、自己判断で安全な状態までもっていく。
ただし自動車専用道路など、使える場所とケースは限定される。
空港における自動運転バスの導入に向けた取り組みを開始|プレスリリース|ANAグループ企業情報
→ANAとSBドライブは2020年以降の実用化に向けてレベル3と4の実証実験開始。
2018年2月 羽田 新整備場 公道でのレベル4相当自動運転実証実験
レベル5(ドライバーレス)
あらゆる場面を完全自動運転で走行できる。(無人有人問わず)
1930代から描かれていた自動運転の夢
自動運転というと、最近フッと湧いて出たような話にも聞こえるけど、実際は1930年代からクルマの開発者達が考えていた夢でもあった。
Build GM Futurama for NY Worlds Fair
→1939年のNY万博でGM(ゼネラル・モーターズ)が作り上げたfuturama(フューチュラマ)。
新しくデザインされた都市を自動運転車が走るという未来の姿。
GMは自動車が普及したきっかけとなったフォード誕生からわずか30年で、自動で走るクルマ社会のビジョンを持っていた。
日本企業もGMと提携、出資を行っているが、GMは2023年までに世界で電気自動車の新車20モデルを市場投入する計画を表明している。
所有物からサービスへ
自動運転が進化して普及すれば、多くの人がクルマを所有しなくなるとも言われている。
クルマで仕事をしている人を除けば、多くの人はクルマに乗っている時間は意外に短い。
マイカーの稼働率は3-5%と言われており、都市部にある高価な駐車場代や保険料を支払って所有していても、9割以上は働くことなくただそこにあるだけのモノ。
特に最近の若い世代は、「モノ」から「サービス」に価値を見出す人が増えているので、今後はクルマもシェアが当たり前の時代が来るかもしれない。
www.businessinsider.jp
Lyftは車の個人所有に関するインパクトに関する、強い主張も行っている。同社によれば、2017年だけで、Lyftの乗客のおよそ25万人が、配車サービスの存在を主な理由として、個人所有の車を手放しているということだ。また顧客のうち50%が、Lyftのサービスのおかげで運転時間が減少したことも報告されていて、さらに顧客の4分の1は、車の個人所有をもはや重要だとは思っていない。
(引用Lyftの調査で、その利用者のうち25万人が2017年に自家用車を手放したことが明らかに | TechCrunch Japan)
現在あるカーシェアリングサービスはただのトレンドではなく、自動運転のレベル4・5の普及を促進する下地にもなり得ると言われている。
(地域内のクルマの稼働状況と乗りたい人のニーズを組み合わせて最適な配車の実現には、現在あるUberやLyftの知見が役に立つ)
カーシェアリングに出資する日本企業
→ソフトバンクはUberに12億ドル出資。
→楽天はLyftに3億ドル出資。
各国・各メーカーの取り組み
トヨタ「自動運転の実現にはAIが不可欠という判断」
→米国にAIの研究・開発施設「TOYOTA Research Institute Inc.(TRI)」を設立。
トヨタがTRIに投資する額は5年間で約10億ドル。
トヨタの研究開発費全体から見れば特別に多い額ではないらしいが、AIのようにカタチのない分野に自動車メーカーがこれだけの額を投資するのは異例。
自動運転のAIのシステムの要素は「ハードウェア、ソフトウェア、データ」。
「ハードウェア=車体」の技術は既に持っているトヨタは「ソフトウェア」と「データ」の技術を自社で賄う準備に乗り出している。
ここでいう「データ」はクルマが経験した交通渋滞や道路情報等のこと。
TRIでは、1台のクルマの経験を、接続機能を有する車両同士で共有してより多くを学習できる(ディープラーニング)のためのソフトを開発しているそう。
→自動運転ソフトの研究会社設立。
→人工知能、ロボティクス、自動運転・モビリティサービスおよびデータ・クラウド技術の4分野で、設立から間もない有望ベンチャー企業への投資を行っていくという。
→オープンソースの自動運転シミュレーター「Car Learning to Act(以下、CARLA)」の開発促進に向け、バルセロナ自治大学の研究センターであるComputer Vision Center(以下、CVC)に10万ドルを助成。
※CARLA;自動運転システムの開発と検証に向けたシミュレーター・ソフトウェア
→系列を重視するトヨタが、自動運転車の心臓部に系列外(しかも外資系企業)のシステムを採用。
ボルボ、テスラ、アウディ、ダイムラーといった車メーカーも、エヌビディアとの協業を発表している。
(グーグルも自動運転の実験車両はエヌビディアの半導体を使っていると言われている)
→投資効果はわからないとしつつも、東南アジアの配車サービス最大手グラブに出資。
ソフトバンクの孫社長は「自動車自体はもはや部品のひとつでしかなく、今後は配車サービスというプラットフォームの方がより大きな価値を持つ」として、10兆円ファンドを通じて、ウーバー、インドのオラ(Ola)、中国の滴滴出行(ディディチューシン)、シンガポールのグラブ(Grab)、ブラジルの99、世界中の主要な配車サービス企業に出資している。
→コネクティッドカー本格展開開始。
地域によって異なる運転のマナー
国や地域によって異なる運転のマナーや暗黙のルール。
人間が少なからず影響を受けているそれらのことにAIはどう対応するのか?
TRIのプラットCEOによると、TRIでは世界中のどこでも通用する共通の価値観をベースに研究を進めているそう。
安全性や生活の質の向上など、AIのシステムに記録し、事故が起きたときにAIが何を考えてどう判断したのかを解析するのだそう。
日産「国連基準を横目で見ながら北米を注視」
日産の自動運転に対する考え方は明確で、2020年には北米で多くの自動運転車が発売されると潮目を読んでいる。自動運転構成部品調達も、提携に囚われない柔軟姿勢が特徴だ。
2018年頃に高速道路で複数車線の自動運転(レベル3~4)を、2020年頃に市街地の自動運転(レベル3~4)を、2022~2023年頃にロボットタクシー(レベル5)の実現を目指すと明言している日産。
「プロパイロット」は悪天候や渋滞でもリラックスして運転できるのが特徴で、1年以内に高速道路の複数車線で自動で車線変更が可能になるそうです。日産は2022年までに「プロパイロット」搭載車20車種を20市場で発売、100万台/年の販売を目指す考え。
(引用日産自動車、自動運転技術「プロパイロット」搭載車を4年後に100万台/年販売へ | clicccar.com(クリッカー))
→DeNAと無人運転車両を活用した交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」の実証実験を3月5日から開始。
ホンダ「遅れを取り戻すようなAI分野の動きに期待」
ロボットといえば、ホンダのアシモを思い出す。ホンダは航空機を自前で開発したり、ロボット技術にも精通している最先端メーカーである。だが、自動運転の世界ではその存在は薄い。
→グーグル系の自動運転システム開発会社ウェイモとホンダは配送・物流用の自動運転車の開発に重点を置く提携になる見込み。
→ASIMO開発終了?ASIMOの技術は立ちゴケしない安全なバイクの開発や介護支援用パワードスーツ的なロボット技術へと進化していくことになる模様。
【追記】
どうやらASIMO開発終了の報道は誤報のよう。
おいおい、NHKニュースさん!
ドイツ「協調領域と競争領域を明確にする強み」
ドイツでは産学連携が非常に強いので、メーカー同士お互いの手の内は周知のこと。
安全に関わる部分は日本同様、EUルールの保安基準に従う必要があるため、自国だけで実施することはできない。
そのためドイツの各メーカー(アウディ、BMW、ダイムラー)は共同で欧州を軸にした地図メーカーのHEREを買収。
メルセデスはHEREの地図を使って自動的に速度を調整する機能を実用化。
イギリス「官学が中心となってシステム・制度作りを行なう」
すっかり世界の自動車産業から取り残され、存在感が薄かった英国の自動車産業。英国病にかかって以来、自国の自動車産業は衰退し、民族資本のメーカーは残っていない。
イギリスはハードウェアでは日本やドイツに敵わないので、ソフト(自動運転に関わる新法の制定など)で勝負を仕掛ける戦略。
国と社会全体で自動運転を促進する国家方針を定めている。
アメリカ「新顔が新風をまき起こすアメリカの開発競争」
最近になってグーグルは「Waymo」という事業会社を独立させ、自動車メーカーとのコラボレーションを始めた。ハードウェアは得意な自動車メーカーも、AIやコンピューターチップの技術は、アウトソーシングしたほうが早くて良いものが作れると割り切っている。その意味では、米国ではサプライヤーと自動車メーカーの水平統合が始まっている。
アメリカ市場は独自の法制度(自己認証制度)を持っているので、2020年頃の実用化の鍵を握ると思われている。
まとめ
法整備も含め、技術面もSF映画で見たような自動運転の世界はまだまだ先、困難が伴う道のようだけど、世界のトップ企業や技術者が日夜開発に励んでいる。
ちなみに日本政府は、自動運転のクルマが事故を起こした場合、今のところ賠償責任はクルマの所有者が負うという方針を明らかにしている。
(これは自動車保険がカバーすることを想定)
ついにクルマが空を飛ぶ!──アウディがエアバスとイタルデザインとタッグを組んだ
→先日アウディはインゴルシュタットで空飛ぶ“エアタクシー”の試験運用を支援すると発表。
この動画のようなタクシー、私が生きている間にぜひ見てみたい。