私が子供の頃は「がん」は不治の病で怖いイメージだった。
最近では研究も進み、治らない病気ではないのは知っているが、具体的に「がん」が何かと聞かれると実際のところはよくわからない。
ということで今回は、「がん」はなぜできるのか そのメカニズムからゲノム医療まで (ブルーバックス)を読んで勉強してみた。
最近スポーツ選手や芸能人の方も「がん」を公表される方が増えている。
果たして日本人で「がん」になる人はどのくらいいるのだろうか?
- 日本人の死亡原因の第1位
- 「がん」とは
- 遺伝性がんが占める比率は高くない
- なぜ「がん」で人は亡くなるのか?
- どうして「がん」が生じるのか?
- 日本における「がんの要因」
- 遺伝的要因とはどんなものか?
- 「命の回数券」テロメア
- 「がん」のきっかけ
- 「がん」は予防できるのか?
- 5つの健康習慣
日本人の死亡原因の第1位
1981年(昭和56年)以来、悪性新生物(がん)は日本人の死亡原因の第1位となっています。現在の日本人が一生のうちに何らかのがんにかかる確率は、男性で62%、女性で46%であり、がんで死亡する確率も、男性で25%、女性で16%であると計算されています。
日本に限らず全世界でみても、男性の3人に1人、女性の4人に1人が一生のうちに何らかのがんになるデータがあるそうだけど、その背景には医学の進歩や衛生環境の改善、食糧の増産により、(先進国を中心に)平均寿命が伸びた影響が大きいそうだ。
(人類が長生きするようになったため、がんにかかる人やがんで亡くなる人が増えた)
「がん」とは
体のなかでどのような細胞がどれだけ増殖するかは、きちんとコントロールされています。それによって体のなかの組織や臓器は適切な状態を保ち、私たちは健康でいられるのです。しかし、このコントロールを逃れ、必要とされる量を超えて細胞が増殖し続けることがあります。すると、増殖でできた余分な細胞は「かたまり」をつくります。このかたまりを腫瘍と呼びます。腫瘍には、良性腫瘍と悪性腫瘍があり、「がん」という言葉は悪性腫瘍とほぼ同じ意味で使われます。
この本には悪性腫瘍の特徴や、どの細胞に由来するか、医師がどのように診断するか詳しく書かれているが、少し難しいのでここでは割愛する。
遺伝性がんが占める比率は高くない
病的な遺伝子の変異が親から子へ伝わることにより遺伝的にがんに羅患し、発症しやすくなるがんのことを特に遺伝性がん(腫瘍)と呼びます。もっとも、がん全体のなかでこうした遺伝性がんが占める比率はかならずしも高くありません。多くのがんで大多数を占めるのは、こうした突然変異遺伝子を持たない人が発症する「散発性がん」です。難しいのは、こうした「散発性がん」においても体質のような遺伝的要因が一部かかわっている可能性があることです。がんの発症には様々な遺伝子がかかわっていますが、そのすべてが解明されているわけではありません。肥満や高血圧、糖尿病などは、がんそのものの発症に直接かかわるわけではないものの、がんの発症確率を高める環境要因となると考えられています。
「がん」というと、遺伝による影響が大きいものだと思っていたのだけど、決して遺伝だけが大きな要因ではないそう。
なぜ「がん」で人は亡くなるのか?
- がん細胞がどんどん増殖して腫瘍が大きくなり、その場所を塞ぎ、場合によって出血を引き起こすため。
- 腫瘍によって臓器本来の機能がブロックされてしまうため。
- がんによって悪液質(がん細胞の刺激で体中で炎症がずっと起こっているような状態)に陥って体力が消耗してしまうため。
がんのできる臓器や転移先の臓器などによって状況は異なるが、大きく分けると上記の3つが要因で亡くなるそう。
どうして「がん」が生じるのか?
環境要因の寄与の大きさを見積もるために、一卵性双生児のがんを調べた研究があります。一卵性双生児は同じ遺伝子セットをもっていますから、もし遺伝的要因だけでがんが発生するなら、一方が胃がんになれば、もう一方も必ず胃がんになるはずです。この理屈により、一卵性双生児の2人が両方とも同じがんを発症する確率から、遺伝的要因の寄与を計算することができます。研究では、大勢の一卵性双生児について、さまざまな臓器のがんの発生を調べ、2人の間の相関を解析しました。その結果、胃、結腸直腸、すい臓、肺などの臓器では、発がんへの遺伝的要因の寄与は30%程度にすぎないことがわかりました。
同じゲノムでもたまたま遺伝子に変異が起こったためにがんが発生することがあるそうで、子宮頸がんや子宮体がんでは、遺伝的要因による影響はあまり強くないという結果とのこと。
つまり人の発がんは、環境要因が大きく関わっている。
日本における「がんの要因」
2005年に日本で発生したがんの人口寄与割合(国立がん研究センター研究グループ推計)によると、
男性が喫煙(29.7%)、感染症(22.8%)、飲酒(9%)
女性は感染症(17.5%)、喫煙(5%)、飲酒(2.5%)
ががんの要因となっている。
(ちなみにハーバード大学が発表したアメリカにおけるがんの発症要因は、タバコ(30%)と食事(30%)が大きな要因)
感染症が日本人のがんの要因の上位に入っているのは意外だったが、ゲノムの解析により、下記のウイルスや寄生虫感染ががんの発生原因だとわかっているそう。
- ピロリ菌→胃がん
- 肝炎ウイルス→肝細胞がん
- パピローマウイルス→子宮頸がん
- ヒト白血病ウイルス(HTLV-1)→成人T細胞白血病(ATL)
- EBウイルス→咽頭がんなど
- ビルハルツ住血吸虫→膀胱がん
- 日本住血吸虫→肝細胞がん
- タイ住血吸虫→胆管がん
ウイルスが原因であるとわかれば、ワクチンなどで感染を防げばがんは予防できるので、それだけでも大きな意味があります。しかし、入り込んだことで何が起こってがんになるのかは、ウイルスによって異なり、まだよくわかっていない部分もあります。
遺伝的要因とはどんなものか?
同じ人種でもがんにかかりやすい人とかかりにくい人がいて、その傾向が遺伝する場合だと考えればよいかもしれません。よく知られているのは、食道がんとアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の関係です。私たちの体内では、酒に含まれるエタノールを2段階で分解します。まず、アルコール脱水素酵素(ADH)でエタノールをアセトアルデヒドに分解し、それをさらにALDHで酢酸に分解するのです。ところが、同じ日本人のなかでも、このALDHの働きが生まれつき強い人と弱い人がいます。弱い人は、アセトアルデヒドをあまり分解できないので、アセトアルデヒドが体のなかにたまってしまいます。アセトアルデヒドは発がん物質のひとつなので、ALDHの働きが弱い人は食道がんにかかりやすい傾向があります。ALDHが弱い人は、お酒を飲むとすぐ赤くなりますから、そういう人は食道がんに気をつけたほうがいいのです。
ちなみに白人と黒人はALDHの働きが弱い人はいないそう。
「命の回数券」テロメア
100歳以上の高齢者やその子孫に共通する現象として、
①同じ年齢の人と比較してテロメアが長い
②炎症反応が低く抑えられていること
がわかったのです。
テロメアに関しての解説は、NIKKEI STYLEの記事がわかりやすい。
生物の遺伝情報が収納されている染色体DNAの両端はテロメアと呼ばれ、染色体を保護する役割を担っている。細胞が分裂するたびにテロメアDNAは少しずつ短くなる。これに伴って細胞分裂の回数が減り、やがて分裂しなくなる。これが細胞の老化だ。
一方、生物はテロメアを再生する働きも備えている。テロメラーゼという酵素が作用することで、テロメアDNAが作り出され伸長する。皮膚や血管、血液など細胞の種類によって条件は異なるが、細胞分裂による「引き算」とテロメラーゼの働きによる「足し算」でテロメアの長さが決まる。
細胞分裂の回数には限りがあるため、テロメアは命の回数券とも呼ばれる。テロメアの短縮と、がんや動脈硬化、心筋梗塞、認知症といった病気との関係が分かってきた。細胞に酸化ストレスや有害物質が作用するとテロメアが短くなり、こうした病気にかかりやすくなるという。
例えば皮膚がんや肺がんの場合。日光を浴び過ぎたり、たばこを吸い過ぎたりすると、紫外線や有害物質の作用で細胞が傷つく。細胞は新しくなるため活発に分裂するようになり、これに伴ってテロメアが短くなる。
テロメラーゼの働きが追いつかないと、細胞の中では染色体がテロメアを失って不安定になり、他の染色体とつながってしまったりする。こうしてがんのリスクが高まる。アルコール性肝炎から肝硬変、肝臓がんへと進行するときもこうしたことが起こる。
NIKKEI STYLEの記事によると、テロメアの状態は
- 心理ストレスにさらされていないか
- 睡眠を十分にとっているか
- 適度な運動をしているか
- 健全な食事をとっているか
といった状態と関係があるとのこと。
「がん」のきっかけ
長年にわたるがん研究から、がんになる大きな要因のひとつがストレスだとわかってきました。ストレスが細胞に作用すると、正常な反応として細胞はストレスから逃れようとします。この反応ががんのきっかけになっています。
ストレスが「がん」のきっかけになるだなんて…。
以前読んだ『凹んだら読む本』に、ストレスとは自分がつくり出している「概念」とあったけど、身体のことを考えたら「物事の捉え方」って重要。
「がん」は予防できるのか?
がんになるかならないかは、遺伝的要因が大きいと思われがちですが、疫学的な調査では、生活習慣のリスク要因が圧倒的に大きな割合を占めます。がんの種類によっては遺伝的要因が大きいものもありますが、大部分のがんは、日ごろの生活習慣の改善によって発症を防いだり再発を抑えたりすることができるといえます。そもそもがんは誰もがなる可能性のある病気です。ほとんどのがんは突然なるわけではなく、長い時間をかけ、がんを引き起こすさまざまなリスク要因が積み重なって、発症に至ります。
予防は三日坊主では意味がなく、継続が重要だとこの本には書かれている。
一般社会では遺伝、放射線、化学物質が「がん」の原因として関心を向けられることが多いが、実際の疫学データを見ると、圧倒的に生活習慣の方がリスク要因として大きな割合(6割以上)を占めているそう。
生活習慣が「がん」の発生に関与していることは間違いないそうだが、具体的にどの生活習慣がどのがんのリスクを高くするのかは、十分な研究結果は揃っていないそう。
しかし、喫煙と飲酒は多くのがんで関連が「確実」とされ、肥満は肝臓がんや大腸がんで「ほぼ確実」、食塩や塩蔵品と胃がんの関連は「ほぼ確実」と評価されており、これらの習慣をやめたり摂取量を減らすことはがん予防につながるそうだ。
そしてがんのリスクを下げる要因としては、『運動』が大腸(結腸)がんで「ほぼ確実」、『野菜と果物の摂取』が食道がんで「ほぼ確実」だそう。
(ただし現時点でのエビデンスの評価なので、今後修正されたり変更される可能性はあるそう)
5つの健康習慣
(引用 5つの健康習慣によるがんリスクチェック|国立がん研究センター)
国立がん研究センターが推奨する『5つの健康習慣』を実践した人の追跡調査によると(全国の40~69歳の男女14万420人対象)、これらの健康習慣を実践する人は、実践しない人または1つだけ実践する人に比べて、男性で43%、女性で37%、がんになるリスクが低くなると推計されたそう。
(上記のサイトで簡単な設問に答えると、がんのリスクチェックができる)
難しい本だったけど、とても勉強になった。